『SCARECROWS』オフィシャルインタビュー‼️

2023/09/27 (Wed)

2022年のファーストアルバム『ANTHEMICS』からわずか1年1ヶ月で届いた、The Ravensによるセカンドアルバム『SCARECROWS』。それぞれにThe Ravens以外にも自身のバンド/プロジェクトがあり、制作/ライブ両面において様々なアーティストのサポートや作編曲家として活動も行うメンバー達が集うバンドであることを考えると、この短いスパンで全13曲というフルボリュームのアルバムを仕上げてきたことに、まず驚きを覚える。


そもそもは2023年10月にツアーを組むことが決まり、それに向けて何かしらミニアルバムサイズくらいの作品を作り、新曲群を掲げて全国のライヴハウスを回りたい、という話からスタートしたらしいが、それがいつの間にかアルバムを作ろうということになっていたとメンバーが笑いながら語ってくれた。なお、2023年3月のツアーのMCで「アルバムを作ります!」と宣言していたのだけれど、その時点でできていたのは“百花爛漫”と、当時のライブでも披露していた“Kick Out The Jam”の2曲、他は初期段階のデモがいくつかある程度だったという。「普通に考えたら絶対アルバムなんて無理なスケジュールではあったよね。超ゾーンに入って、そこから1回も抜けないですべてが順調に行ってギリだなってタイム感だった」とKjが話していたが、逆にいえば、その「超ゾーンに入った状態」がキープされたからこそ、この『SCARECROWS』が完成したと捉えることもできる。


実際、今回の作品全編に漲るバンドの熱量の高さにしても、果敢な挑戦心をもって実現されている豊潤かつ密度の濃い音楽的アプローチにしても、そしてそれぞれの楽曲の緻密にしてドラマティックな完成度にしても、The Ravensが今、バンドとして極めて高い向上心と充実に満ち溢れていることは疑いようがない。


もちろん前作『ANTHEMICS』も手練れのミュージシャン達によって構築された完成度の高い作品だったが、「バンド」として行う初めての制作であったことや、コロナ禍という逆境の日々の中で編まれていったが故の内省的な側面も強い作品であったことも含め、互いのプレイヤビリティを引き出し合いながらThe Ravensとしてのメカニズムとアイデンティティを丁寧に模索・確立していったファーストアルバムだった、とも言えるだろう。


その過程を経た上で、さらには2本のツアーを経た上で、今作『SCARECROWS』では5人がより強く、より深く、そしてよりアグレッシヴに、バンドとして非常に自由かつ遠慮のない化学反応を起こしていることがとても伝わってくる。先行して配信された“Black Jean Boogie”をはじめ、それぞれのディスコグラフィと照らし合わせても音楽的に明確に新しいアプローチに取り組んでいる楽曲も多々あるし、器楽的な面白さのみならず、“百花爛漫”や“Friends & Lovers”のように、Kjの歌に関してもこれまでとは異なる新鮮な響きを放っている曲も複数ある。ソングライティングを務めるKj、PABLO、渡辺シュンスケの3人は元々それぞれにいい意味でクセのある、一筋縄ではいかない作編曲家だが、「The Ravensであれば、こんな音楽性も試せるし、実現できる」という気概と好奇心、そして確信をもって意欲的に作り込まれていったであろう楽曲が並んでいる。プレイヤーとしての5人が培ってきたテクニックや旨み、経験とセンスを最大限に活かしつつ、それぞれに新たな挑戦を誘発し合うことで、このアルバムは前作とはまた異なる地平へとThe Ravensを大きく押し上げている。


YouTubeのオフィシャルチャンネルにてメンバー全員でのアルバム全楽曲のインタビューを実施したので、各曲の詳細はそちらを是非見て欲しいのだけど、以下、簡単にではあるが全曲に触れる。


M1. Hi There

Kj作曲によるイントロダクション。穏やかな光に満ちたサウンドスケープと、語られる願い。ライヴハウスという大切な場所での再会と、ここからスタートする物語への期待を膨らませるような楽曲であると同時に、閉ざされたドアを開けて自由な世界へと進んでいく、その始まりへと導く曲。


M2. Nimby

PABLO作曲によるオープニングナンバー。力強く、それでいて軽やかに地を蹴るドラムから始まり、どこまでも大きく景色を切り開いていく雄大なロックチューンであり、今回のアルバムのひとつのテーマである「解放」を象徴するような楽曲だ。曲に呼ばれたというKjの歌詞は、まさに彼らがThe Ravensを、そしてロックバンドをやる本質的な理由にして、改めての宣言でもある。


M3. Black Jean Boogie

Kj作曲。「The RavensがThe Ravensたるっていう部分を、俺の中でもう少し幅を広げたかった」という彼の言葉の通り、ジャズやロカビリーのエッセンスが色濃く盛り込まれた楽曲は、The Ravensとしても、そしてKjのディスコグラフィとしても、明確に新たな扉を開けるものであり、今後の可能性を広げた曲だと言える。ランニングベースやフリーキーなピアノなど、演奏面での聴きどころも満載。


M4. (曖昧さ回避)

Kj作曲。冒頭から裏打ちのリズムを感じさせつつも、一筋縄ではいかない展開に。バンドのレコーディングは通常、リズム隊から上モノへと進行することが一般的だが、この曲はピアノが入った上でドラムを録ったという変則的な順序で制作。そういった点も含め、互いの音へのリアクションからユニークかつアグレッシヴなアンサンブルが生まれていった、The Ravensならではの一曲。


M5. Scarecrows

Kj作曲によるタイトルトラックであり、“Nimby”と同様にこのアルバムの精神性を象徴する一曲でもある。Kjいわく、“白鯨”や“楽園狂騒曲”で見つけたThe Ravensのひとつのスタンダードとなる世界観をブラッシュアップして作ったという。躍動感溢れるグルーヴと瑞々しいサウンドスケープ、その上でどこまでも自由に飛んでいく解放的なサビが印象的で、そこにまさにメッセージが託されている。


M6. Maple Avenue

PABLO作曲。イントロの繊細で美しいギターのフレーズにまず耳を奪われる、滴り落ちるようなメロウな叙情と清々しい光に満ちた壮大な一曲であり、PABLOという作曲家/ギタリストのひとつの真骨頂が見える楽曲でもある。武史&櫻井いわく進行や展開などが実は凄く難しい、「PABLOが普通にやってることは、普通じゃない」という面が表れた曲でもあるとのことで、その辺りも注目。


M7. Picaresque

渡辺シュンスケ作曲。渡辺いわく「暗くてセクシーな、ダークサイド・ヒーローを思わせる表現をしてみたかった」というこの曲は、構造としてもサウンドデザインとしても本作の特異点を刻む。重低音のベースラインが不穏さを醸し出しつつ、全編に通底する凛と張り詰めた緊迫感が心地よくもスリリングな狂気性を生み出している。中盤の楽器の掛け合いからジリジリと熱を帯びていく展開も見事。


M8. Kick Out The Jam

PABLO作曲。2023年3月のツアーで先行して演奏されていた、アッパーなオルタナチューン。PABLOのデモを元にスタジオでラフに詰めていったという、The Ravensとしては珍しい作り方の曲でもある。Dinosaur Jr.やThe Pixies、あるいはThe Smashing Pumpkinsのような80年代末から90年代初頭のオルタナ/グランジの香りが強く立ち上る、メンバーのひとつのルーツを感じさせる一曲。


M9. Drunken Band

Kj作曲。スペインや南米の酒場街を彷彿させられるような、ロカビリーとラテンとパンクを掛け合わせたような音楽観で、これもThe Ravensとしては新鮮な、けれど実にしっくり来る一曲。インプロヴィゼーション的な印象の強いピアノプレイや、終盤の唸るようなギタープレイにシビれる。冒頭の氷をステアする音に示唆されているようにThe Ravensの乾杯ソングでもあるので、ぜひ酒と共に。


M10. Friends & Lovers

渡辺シュンスケ作曲によるゆったりとしたミドルバラードであり、M7とはまた別の意味で本作の特異点となる曲。Kjからのバラードを作って欲しいというリクエストが発端となったというこの曲は、ソウルやジャズのクラシックなバラードを感じさせつつ、洗練された一曲へと仕上げられている。柔らかなファルセットでしっとり歌い上げる歌唱は、シンガーとしてのKjの新たな魅力を見せている。


M11. 百花爛漫

Kj作曲。前作『ANTHEMICS』完成後、すぐに生み出した一曲であり、今回の一連のアルバム制作の起点となった楽曲。ストリングスとピアノを主体としたアレンジであること含め、一聴するとKjにしては珍しい王道の歌モノ曲という印象を抱くが、複雑なコード進行や一筆書きではあり得ない各楽器の作り込まれたアプローチなど、サウンド的な聴きどころも抜群の楽曲でもある。歌唱も新鮮。


M12. Picnic

Kj作曲。“Kick Out The Jam”とは異なるベクトルではありつつも、この曲もThe Ravensの中ではシンプルなアッパーチューンであり、キラキラと自由に跳ねるピアノとバンドサウンドが生み出すダイナミクスが心地よく心身を躍動させる一曲。少しのセンチメンタリズムとそれを上回る解放的な高揚感を掻き立てるメロディも含め、ライブにおけるシンガロング・アンセムになっていく予感を抱く。


M13. Hermes

Kj作曲によるアルバムのクロージングソングにして、本作が表す「解放と祝祭」を極限まで押し広げるような、眩いまでの光量を放つエモーショナルな楽曲。瑞々しいエネルギーを強く芽吹かせていくそれぞれの楽器の音、どこまでも天高く伸びてゆくKjの歌。人生は有限であるからこそ、人はそれぞれに生きていくものだからこそ、互いに共有し合える今この瞬間を愛し、全力で生き、祝福し合おうというメッセージは、今のKjの根幹にある想いでもあるのだろう。



最後に、アルバムタイトルに掲げられた「SCARECROW」とは、直訳すると「カカシ」のこと。それはコロナ禍において自由を制限された自分達自身やオーディエンスに対して、ここからまた動き出していこうという呼びかけの意味を持っているとともに、コロナ禍関係なく、閉塞する時代や、生きている中で何かしらの制限や呪縛に囚われている状態からの解放を力強く促し、その生き様を肯定し鼓舞し合う祝祭の場を音楽で生み出していくのだという、強い願いとメッセージが託されているものでもある。音楽的にも精神的にも、前作から一歩踏み出した挑戦と自由がとても瑞々しく躍動する今作は、The Ravensにとって、そして彼らの音楽が鳴り響く先にいる人々にとって、大きなエネルギーをもたらすアルバムであることは間違いない。このアルバムから、大いなる旅がまた始まっていく。



有泉智子(MUSICA編集長)

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